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続 譲れない一線

 下野新聞社の印刷部門別会社問題で、労働組合(全下野新聞労組)は会社に白紙撤回を求めることをきょう(16日)決めた。同労組の組合ニュースによると、当該の印刷部門はもとより、他職場の組合員からも会社方針に疑問を示す声が上がり始めている。
 会社提案は生活破壊だと前回書いたが、より本質的には、今回の問題はわたしたち既存の労働組合が「労働者の権利」をどういう風に考えるか、それが問われている問題だととらえている(ここでは「労働者」を「労働組合」との兼ね合いで限定的に使う。単に「働く人」という意味ではない。経済的に支配従属の関係にある被雇用者のことだ)。労働者としてのわたしたちは、一人ひとりでは弱い。雇用者から不当な扱いを受けても何もできない。だから憲法28条は弱者を保護する権利として「勤労者の団結権」を認めている。団体交渉もストライキも権利として認めている。労働組合それ自体が権利だといっていい。
 会社側の本音は、印刷部門の労働者を狙い撃ちにして人件費削減、つまり経費削減を図ることにある。弱者を保護する権利を具体化しているはずの労働組合が、そうしたやり方、強者と弱者を選別するようなやり方を許していいのか。そこを譲ってしまえば労働組合は成り立たない。
 一方で、これは新聞産業の労働運動に限った話ではないが、日本の労働組合は長らく、企業ごとに組織され正社員で構成されてきた。契約社員や派遣社員などの働き方がなかった時代は、それも自然な流れだったかもしれない。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代、日本企業の「終身雇用、年功序列、企業別組合」は「3種の神器」と呼ばれた。
 しかし、「終身雇用」は崩れ、契約社員や派遣社員など不安定な働き方に置き換えられつつある。あるいは外注化が進んでいる。新聞産業の印刷別会社化は業務の外注化の一形態だ。「年功序列」も崩れ、まず職能主義、次いで今は成果主義が広がってきている。社会構造も労働環境もすっかり変わってしまった。なのに「企業別組合」だけが変わっていない。従来通りの枠組みの中で、組合員が正社員であることに「勝ち組」意識を持っていたら、労働組合は特権的な存在ということになる。現にそうなっていることは否定できない。
 今、わたしたち既存の労働組合が気づかなければいけないのは、労働組合は労働者ならだれしもが手にできるはずの当然の権利なのに、無権利状態のまま不安定な働き方、低い労働条件を強いられている人たちがどれだけ多いかということだ。労働組合の組織率が年々低下し、18%台にまでなったということは、そういうことだ。組織率の数字は知っていても、その意味には気づいていない。
 労働組合は企業別に正社員でしか作れないものではない。企業籍の違い、正社員かどうかを問わず加入できる労働組合もある。もともと労働者は一人では弱い。正社員よりもさらに弱い立場の契約社員や派遣社員に「自分で労働組合を作れ」と言うのは酷に過ぎる。既存の労働組合が何をするのかが問われている。わたしたちの労働組合の外で無権利のままに置かれている人たちと、正面から向き合わなければならない。
 既存の労働組合が意識をあらため、運動の実践をあらためていくためには「行動」しかない。まずは身近な課題に対して行動を起こすことだ。その行動を通じて、今まで気づかなかったことに気づかなければならない。そこから次の行動を始める。
 新聞産業の印刷別会社化で言えば「正社員としての待遇、今の賃金、今の労働条件を守れば終わり」ではない。それは最初の一歩だ。その一歩も踏み出せないなら、何も変わらない。小さくてもいいから、その一歩を積み重ねていくことが必要だ。そして、金の問題以上に、権利の問題だということを繰り返し強調したい。労働組合という弱者の権利をどうやって広げていくのか、ということだ。下野新聞社をめぐる今回の一件は、新聞産業の産別労働運動にとって、問題提起の起点になる可能性を秘めている。だから譲れない。金の問題と考えてはいけない。わたしたち自身がその意識を変えなければ、正社員の特権を守るための運動としか見てもらえない。
 わたし自身が新聞産業以外で支援にかかわっている争議がある。派遣社員として働き、雇い止めを通告された。しかし、正社員に伍して働いていた。何よりも採用面接に派遣先が介入しており、就労後も労務管理は事実上、派遣先が行っていた。腑に落ちなかったが、企業籍がなくても加入できる産別の個人加盟組合に加入して、覚悟が固まった。実態は正社員同然であり雇い止めは不当だとして、裁判闘争に踏み切った。派遣先の企業には正社員の組合があった。争議の当事者は働いている当初、正社員組合になじめなかった。自分にとって「敵」と感じていた。しかし、今は産別組合の方針に従い、正社員組合も裁判を全面支援している。行動を通じて双方の意識が変わってきている。

by news-worker | 2005-09-16 23:23 | 全下野新聞労組の闘争  

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