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被害者の実名、匿名

 犯罪被害者らに対する国の基本計画の検討会の基本計画案に、事件発表で被害者の実名・匿名を警察が個別に判断していく方針が盛り込まれていることに対し、日本新聞協会は21日に反対の意見書を内閣府に提出した。要するに①被害者名は関連取材に欠かせない情報であり発表は実名でなければならない②被害者名を実名で報道するか匿名で報道するかは、警察発表とは全く別の話で、報道側が判断する-ということだ。
 社会部の職場にデスクとして身を置いていると、実名か匿名か、判断に悩むケースは日常的にある。どこの新聞社でも基本的なスタンスは「原則実名、例外として匿名」というところだろう。強姦事件の被害者など、匿名とする明確な基準を決めているケースもある。しかし、強姦殺人事件となると、強姦被害者の側面よりも殺人被害者の側面がクローズアップされ、実名原則が適用されるケースも出てくる。その場合は強姦の事実を強調しない、あるいは伏せてしまう書き方になる。
 新聞協会の意見書に話を戻すと、その主張は正論であることは違いない。わたし自身の考え方も近い。しかし、一般の市民からは支持を受けないだろうな、と思う。これまで、新聞やテレビの事件事故報道は「被害者不在」をずっと続けてきたからだ。そのことは、先日、新聞労連の若手記者研修会で聞いた、4月のJR西日本脱線事故で犠牲になった方の遺族の話を思い出しても痛感する。
 メディア界の中では、現場の記者たちの間で「被害者に寄り添う報道、メディア」を模索する活動も始まっているが、残念ながらメディアが組織として取り組んでいる動きではない。取材・報道の現場では今日も変わらず、当事者たちから見れば「無神経」としか言いようのない「原則は実名」の硬直的な思考のままの記事が送り出されている。
 今、メディアが考えなければいけないことは「実名か匿名かは報道側が決める」ということから一歩進んで、「実名か匿名かは、当事者の意向を踏まえて報道側が決める」を原則とすることではないか。実務上の経験から言えば、迷ったら匿名にすればいい。当事者の意向を確認した後に実名に切り替えることは容易だが、一度実名で報道したものを匿名に切り替えるのは難しいからだ。
 メディア、特に後々まで記録として残る紙メディアの新聞は、まず自己改革の議論を自ら組織内で始めなければならないと思う。若い記者が熱心に取材し、当事者の話もきちんと取材した上で匿名報道を主張するのに、デスクや編集幹部が「匿名にするケースには当たらない」と実名にしてしまうようなことは、もうやめなければならない。
 犯罪被害者らに対する国の基本計画の検討会は25日の会合で、新聞協会の意見書を受けて議論をしたけれども、ほぼ原案通り、実名か匿名か、発表は警察の判断に委ねると決めたと報道されている。やっぱりな、と思う。

by news-worker | 2005-10-26 02:03 | メディア  

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