2つの「3月20日」

 3月20日はイラク戦争開戦から3年であると同時に、オウム真理教信者らによる地下鉄サリン事件から11年でもある。

 3年前は、この戦争の日本と日本人との関わりをどう考えていけばいいのか、わたしは社会部の職場で同僚たちと、あれこれと議論しながら取材を進めていた。米英軍がイラクに「侵攻」なのか「進攻」なのか、用語をめぐって議論があったりしたが、正直に言って、開戦当初を振り返れば、どこか遠い地域での出来事、メディア内部ではもっぱら外信部が主役、という雰囲気だったと思う。



 その後、人道復興支援を大義名分にした自衛隊派遣が急浮上し、イラクはぐっと身近な存在になり、社会部の取材も忙しくなった。年が明けて2004年1月、陸自先遣隊がクエート国境を超えてイラク入りした際には、社会部からも記者を現地に出し、取材・出稿はフル展開の日々が続いた。
 3年前、米国がイラク先制攻撃に踏み切った大義名分は、サダム・フセイン政権の大量破壊兵器保有疑惑だった。小泉純一郎首相も即座に開戦を支持した。今は、大義なき戦争だったことが明らかになっている。しかし、ブッシュ米大統領も小泉首相も、開戦が誤りだったとは認めていない。自衛隊もイラクに派遣されたままだ。
 この間、米軍の世界的規模の再編に合わせて、在日米軍基地の再編協議が進み、大詰めを迎えている。そのこと自体、米軍と自衛隊の一体的運用の強化であり、有事法制をはじめとして、それを可能にする仕組みも着々と出来上がっている。憲法9条が自民党案の通りに改訂され、集団的自衛権の行使も解禁されれば、新生「自衛軍」は米軍とともに〝テロとの戦争〟に参戦することになるだろう。イラクで英軍が果たした役割だ。

 この3年の間に、日本社会では小泉首相の構造改革路線によって、ますます「格差」が拡大した。雇用・労働問題の面では、契約社員や派遣社員、パート、アルバイトなど非正規雇用の人たちがどんどん増えている。注意が必要なのは、決して望んで不安定な働き方を選んだ人ばかりではない、ということだ。しかし、そうは考えない人が多い。特に自らが正社員の場合、その風潮が強いように思う。また、「フリーター」や「ニート」も、勤労意欲に欠けているといったマイナスイメージで語られることが多い。
仮に、このまま9条改憲に進んだ場合、「格差社会」は「戦場で殺し、殺され合うのはだれか」の問題に直結してくるだろう。「勝ち組、負け組」の二元論が、「ろくに働こうともしないフリーターやニートは自衛軍に入って国のために死ね」という風潮を生み出すことを危ぐする。

 さて、11年前の3月20日は、わたしは社会部で前夜からの泊まり勤務明けだった。ことしと同じように、前日は日曜日で、翌日は春分の日の祝日だった。朝8時すぎだったと思う。「地下鉄で乗客がバタバタ倒れている」との警視庁詰め記者からの連絡が第一報だった。泊まり明けの少ない人数で手分けして取材を始めた。社会部員の総員呼び出しもやった。今のように携帯電話なんてなかったから、ポケットベルを片っ端から鳴らす。折り返し、部員から次々に電話がかかってきて、職場はあっという間に騒然となった。
 前年には長野県松本市の松本サリン事件が起き、オウム真理教とサリンのつながりも指摘されていた。午前中には、警視庁が「地下鉄車内でサリンが撒かれた疑いが強い」と発表した。あとはもう何が何だか分からなかった。その日、わたしがまとめた記事で「首都東京は終日、見えない恐怖におびえ続けた」と書いたのを覚えている。

 この日を境に、警察はオウム真理教への捜査を一気に加速させる。オウム真理教の信者であれば、微罪でも何でも即逮捕だった。森達也さんが「ご臨終メディア」で指摘している通り、いわゆる「ビラまき」逮捕事件が多発し、共謀罪の新設も強行されかねない今日の情勢はどこから来たかといえば、あの時の「オウム狩り」にさかのぼるのかもしれない。オウム真理教の信者なら、マンションの駐車場に車を止めれば「住居侵入」で、カッターナイフを持っていれば「銃刀法違反」で現行犯逮捕する、そういうやり方を社会が容認した。メディアはその以前から、俗に「ヤクザと過激派に人権なし」とうそぶきながら、法令の明らかな拡大適用を許してきた。そのことの報いを今、メディアも受けつつあると思う。

 イラク戦争と地下鉄サリン事件。この2つの「3月20日」は今、ひとつにつながっている気がしてならない。9条改憲が現実のものとなり、共謀罪が新設されれば、日本の「戦時社会化」は完成する。そうなったとき、「戦争反対」の言論は「敵を利するだけで、国益に反する」として、弾圧を受けることになるのではないか。
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by news-worker | 2006-03-21 01:02 | 平和・憲法  

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