人気ブログランキング | 話題のタグを見る

永田議員の情報提供者開示は「知る権利」にかかわる新たな問題を引き起こした

 永田寿康衆院議員のホリエモン(堀江貴文前ライブドア社長)メール騒動は、永田議員が24日の衆院懲罰委員会で情報提供者の氏名を明かし、同委員会が提供者とされるこの男性の証人喚問を決める展開となっている。冗談ではない。メール騒動はここに来て、議会制民主主義と「知る権利」の根幹にかかわる新たな問題を引き起こしてしまったと思う。
 永田議員は24日の懲罰委員会で「情報仲介者の秘匿が大変重要だと名前を伏せてきたが、偽物の情報をつかまされた。情報源との間に信頼関係がないものと考え、ここで名前を明らかにしたい」と述べた(朝日新聞25日付朝刊の「答弁要旨」から引用)。この永田議員の姿勢の変化をめぐっては、いわゆる識者の間でも賛否両論がある(例えば東京新聞記事)けれども、わたしはやはりおかしいと思う。
 いやしくも国会議員が国会質問で取り上げた情報だ。その出元は、いかなる理由があろうとも秘匿されるべきだ。そうでなければ、国会議員への情報提供は成り立たなくなる。先の東京地裁決定(以前のエントリー)で注目されたが、メディアの取材源の秘匿と事情は何ら異なるところがない。




 今回はメール自体が虚偽だったということで決着しているが、仮にメールの真偽に決着が付かないまま、その入手方法に問題がある、ということだったらどうだろうか。違法に入手されたメールであるから、提供者の氏名を明らかにせよ、そうでなければ真偽を判断しようがない、と迫られたらどうするのか。
 1972年の沖縄返還をめぐり、日米両政府間の密約を裏付ける外務省の秘密電文を入手した毎日新聞の西山太吉記者(当時)が逮捕された事件を想起すれば、あり得ない話ではない。日米両政府の密約という核心はうやむやにされ、西山記者の電文入手の方法の是非に問題がすりかえられた。その結果、何が起きているか。当時の外務省担当局長が「密約はあった」と今日証言してもなお、政府はシラを切り続けている。
 なぜ、西山記者の取材が露見したかと言えば、西山記者から電文のコピーの提供を受け、国会で質問した横路孝弘衆院議員(当時社会党)のわきの甘さが一因だったとの指摘がある。横路議員がコピーの省内決裁欄を隠さずそのままにして政府に渡してしまったため、省内のどの段階で外部に流失したか、いとも簡単に分かってしまった、との指摘(例えば澤地久枝さんの「密約―外務省機密漏洩事件」)だ。
 西山記者の一件は、情報提供者の秘匿がいかに重要かということを示している。西山記者自身が横路議員への情報提供者であり、西山記者に電文を提供した外務省職員もいたという二重の意味で。

 今回の永田議員のケースでは、メール自体が虚偽だと結論付けられたこと、名指しされた情報提供者に、とかくの評判が付いて回っていることなどから、氏名の開示もやむなしという見方があるが、それはおかしいと思う。メールが虚偽だろうが、情報提供者がうさん臭かろうが、誤解を恐れずに言えば、そんなことはどうでもいい。国会混乱の責任の所在を明らかにするために、永田議員が議員辞職すればいいだけのことだ。氏名の開示は必要ない。永田議員が議員の地位に連綿とし、質問を後押しした民主党の前原誠司代表も保身のために永田議員のクビを切れないがために、国会議員として越えてはならない一線を越えてしまったのが、今回の情報提供者の氏名の開示ではないのか。
 「偽物の情報をつかまされた」「情報源との間に信頼関係がないものと考え(た)」との永田議員の弁明は、永田議員と情報提供者との間のことであって、本来、国会にも国民にも関係ない事情だ。要は「わたしがバカでした」というだけのことだ。なのに、与党の追及をかわすために、いわば苦し紛れの方便として「自分も被害者だ」と言わんばかりの弁明をし、国民の「知る権利」の根幹を揺るがしかねない事態を招いてしまった。
 そもそも、今回のメールの一件は、情報の扱い方があまりにも稚拙だった永田議員と前原代表が引き起こした〝騒動〟のはずだった。しかし、情報提供者の氏名開示で、これは〝事件〟になってしまったと思う。悪い前例は、そうとは当事者が意識していない状況で作られてしまうのかもしれない。
 永田議員は懲罰委員会での弁明で「私にとってのけじめは身を正し、心を入れ替え、政治家として国民の信頼が政治に戻ってくるよう日々努力し、それが実現した日にけじめがつくものと思っている」(前記朝日新聞「答弁要旨」)とも話している。冗談ではない。今からでも遅くはない。永田議員がなすべきは、名指しした情報提供者が懲罰委員会に喚問されるような、さらなる事態の悪化を避け、これ以上、悪い前例を重ねないようにすることだ。それが議員辞職なら、そうするしかないと思う。

追記 3月26日午前10時

 永田議員が氏名を明かした情報提供者は、以前からネット上では実名が飛び交っていた。そういう事情からか、ネット上では「やっと永田議員が認めたか」という論調が目に付く。しかし、永田議員が国会で氏名を明かしたことは、議会制民主主義という現実社会の中では、決定的な意味を持つ。新聞記者の取材現場では、例え訴えられて「情報源は○○だろ」と追及されても、ネット上で「ネタ元は○○」と暴露されても、記者は「情報源は明かせない」と突っぱねる。
 場合によっては実名が国会で明かされ、懲罰委員会に喚問されることもある、となったら、だれが国会議員に情報を提供しようとするだろうか。

by news-worker | 2006-03-26 00:47 | 社会経済  

<< 全下野新聞労組が闘争報告集会 こんな裁判官もいる~志賀原発2... >>