この決着でいいわけがない~公取委が新聞特殊指定の廃止見合わせを与党に表明

 昨夜は疲れてしまい、ネットチェックもそこそこに寝てしまった。けさ新聞を見て、公正取引委員会が新聞の特殊指定廃止見合わせの方針を与党に伝えたことを知った。決着の仕方としてはいいわけがない。仮にこれで新聞の特殊指定の存続が決まるとしても、新聞販売が抱える矛盾は解決しないし、新聞にとっては別の新たな問題を引き起こすことにつながりかねない。朝日新聞記事の一部を引用する(全文はこちら)。
(引用開始)
 公取委はこの日、与党に提出した声明で「新聞業界と議論を繰り返してきたが、かみ合っておらず、これ以上続けても進展は望めない。各政党も新聞特殊指定を存続させるべきとの議論がなされている」と説明。「今回の見直しでは結論を出すことを見合わせることとした」と、指定の維持を表明した。
 公取委幹部によると、「特殊指定に問題がある」との主張は崩していないが、「諸般の事情を総合的に考慮した」。昨秋から続けてきた見直し作業は打ち切り、当面は再開しない見込みという。
(引用終わり)




 公取委は昨年11月に、新聞を含めた特殊指定の見直し着手を表明。その際には6月をめどに結論を出すとし、新聞についても廃止の方針を強くにじませていた。その後、新聞業界を挙げての「戸別配達維持」と公取委批判のキャンペーンがあり、政界も党派を超えて新聞の特殊指定の存置を求めた。それにとどまらず、廃止の場合の手続きを厳格にして公取委の裁量を制限する独禁法改正案まで準備した。公取委は「『6月中』にはこだわらない」と修正。新聞業界との間で協議を尽くす、としていた。しかし、これよりも早く、公取委は5月末日をもって「結論を出すことを見合わせる」という〝結論〟を出した。
 朝日の記事中にある「新聞業界と議論を繰り返してきたが、かみ合っておらず、これ以上続けても進展は望めない。各政党も新聞特殊指定を存続させるべきとの議論がなされている」との公取委の認識から言えるのは、要するに「新聞業界の主張は公取委としてはまったく理解できない。しかし、行政委員会である公取委としては、政治家の先生方には逆らえない」として政界に白旗を掲げた、ということだ。これでは、新聞業界は当事者のポジションから外されたも同然だ。新聞業界が公取委の主張に真っ向から論戦を挑み、議論をたたかわせて公取委が納得する形で、特殊指定の存続が決まるのならともかく、新聞販売の独禁法上の問題は今後、政界と公取委の間で決められてしまう事態を招きかねない。
 今回の公取委の判断の決め手は、独禁法改正案の議員立法の動きだと思う。公取委も政府機関の一員であり、公取委なりの〝省益〟を持っている。その中で最大のものが、独禁法をもっぱら運用する、というポジションだ。今回、議員立法によってその一角が脅かされる、と公取委は感じた。その事態だけは避けたい、ということではないだろうか。
 一方で、新聞業界は早くから政界への働きかけを進めていた。地方紙は地元の県議会に陳情をし、特殊指定存続の決議をした地方議会もある。中央政界に新聞業界側がどんな働きかけをしたのかは、実はわたしもよく分からない。しかし、政党、個々の政治家にとってみれば、できれば新聞は敵に回したくないメディアだ。今回の問題の場合は「戸別配達網の維持」という新聞業界が用意した大義名分もある。超党派で特殊指定維持を求める動きが容易に出来上がったのは、そういう事情からだと思う。

 結果的に、新聞業界が問題の当事者から外されてしまいかねない事態に至ったことを、新聞業界の中にいるわたしたちは深刻に受け止めなければならない。公取委が見直し見送りの結論をまず当事者である新聞業界(の窓口である新聞協会)にではなく、与党に伝えたことの意味は大きい。逆に言えば、政界が公取委側に立つような情勢が生まれれば、新聞業界は窮地に追い込まれる。新聞が、読者・市民から理解と支持を得る努力を怠ったままでは、そうならないとも限らない。
 かつて著作物再販をめぐっても、新聞は今回と同じように政界に陳情し、結果的に存続が決まったから、今回も問題はない、という議論もあるかもしれない。しかし、著作物再販では新聞のほか出版業界、音楽業界も一緒になってのことであり、それなりに世論にも働き掛け、支持も得ていた。新聞業界が単独で、しかも論理の飛躍をはらんだキャンペーンを各紙が紙面で展開した今回とは事情は異なる。

 本来的に権力側はメディアを統制したいという欲求を強く持っている。改憲手続きの一環としての国民投票法案論議では、ひとまずメディア規制は撤回されたとはいえ、ここ数年を振り返っても、そのことは個人情報保護法、人権擁護法案、有事法制、犯罪被害者の権利擁護論議などで、メディア規制が繰り返し論議されてきたことを見れば明らかだ。このエントリーの冒頭で触れた「別の新たな問題」とは、今後新聞をはじめメディアへの法規制が取りざたされた場合に、新聞がそれを押し戻すことができるか、ということだ。

 この問題に関する前回のエントリーで紹介したが、専修大の山田健太助教授の言葉をあらためて思い出す。「著作物再販と特殊指定は必要。しかし、今ある新聞を残すかどうかは別の問題」。今あるわたしたちの新聞は事態がここに立ち至って以後、何をするのか、しなければならないのか考えている。
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by news-worker | 2006-06-01 11:54 | メディア  

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