新聞は〝じゃんけん後出し〟しかできなかったのではないか

 廃案となるまでは気を抜くわけにはいかない共謀罪だが、この1カ月余を振り返って、ブログの力というか、weblogosphereの世論形成力、社会運動としてのブログの可能性について考えている。言い方を変えれば、新聞、放送といった既存の大手メディアが、共謀罪をめぐる報道ぶりでこの間に露呈したのは、ごく一部の例外を除いて〝じゃんけん後出し〟のような報道しかできなくなってしまっている実情だ。
 綿密な検証をしたわけではなく、どちらかと言えば直感に近いことをあらかじめお断りした上で、この1カ月余の経緯を簡単におさらいしておきたい。

 衆院法務委員会で自民・公明両党が野党の反対を押し切り、審議入りを決めたのが4月1918日。同21日に始まった審議では、当初から与党側はゴールデン・ウイーク(GW)前の採決方針を表明。いきなり、強行採決が危ぐされる事態となった。



 しかし「明日からGW」という同28日、与党が提案した採決は、自民・民主両党の国対(国会対策)協議で、ギリギリのところで見送られる。GWが明け、審議は再開。5月16日(火)に最初のヤマ場を迎えるが、この日は採決はなし。次いで19日(金)、今から振り返れば、この日が最大のヤマ場だった。与党は「審議は尽くした」として強行採決の方針を固め、午後の衆院法務委へ。しかし、委員会が開かれているさなかに、衆院議長が与党に懸念を伝え、急転直下、審議続行となる。衆院議長の〝裁定〟には、国会審議全体が荒れることを恐れた小泉首相の意向があったと伝えられている。
 「少なくとも、今国会の採決はなし」との観測が流れていた6月1日、与党は最後のウルトラCに打って出る。民主党が出していた修正案を丸呑みするから、採決に応じるよう民主党に持ちかけた。しかし、とにもかくにも成立させ、後日、修正すればいいとの与党のホンネが伝わり、民主党は翌2日の審議を拒否。現在に至り、大幅な会期延長の急浮上など、よほどのことがない限り今国会の成立はないという情勢が確定した。

 さて、この間の国会外での動きだ。GW後こそ、新聞をはじめメディアは衆院法務委の動きを大きく伝えるようになったが、その最大の要因は、民主党が本気で与党と対決するハラを固めたからだったと思う。つまり、共謀罪の審議いかんが政局を直接、左右するまでになったから、メディアも無視できなくなった、と言っていい。決して、共謀罪が内包する危険性を重視してのことではない。日本のメディアのとりわけ政治報道(事件報道もそうだが)に顕著な〝落としどころ報道〟の枠を一歩も出ていなかった。途中では、5月19日の朝刊で「共謀罪きょう採決」という〝決め打ち〟の見出しを立てて結果的に誤報となった朝日新聞の例があったりした(本文中の記事は完全な断定調ではない)が、こうしたことも政治報道落としどころ報道ではそんなに珍しいことではない。朝日新聞は返しの翌日朝刊では、首相を含めて政府・与党の奥の院でどんなやり取りがあったか、その内情を詳しく報じ、それはそれで意味のある報道ではあったけれども、やはり落としどころ報道であったことに変わりはない。
 共謀罪はたんに法律が変わるというだけの話ではない。わたしたちの社会が密告・監視社会に大きく足を踏み出すかどうか、という問題であり、言論・表現の自由に拠って立つ新聞にとっても、これを見過ごすことは自らの首を締め上げるにも等しい問題だ。しかし、この新聞の鈍感さはどうだろうか。その鈍感さは、独禁法上の特殊指定問題では、新聞各紙とも論理のすり替えないしは飛躍を伴ったキャンペーンをこぞって紙面で展開したことと対比すればよく分かる(例外は東京新聞。他紙がほとんど書かない中でも、多角的な切り口から共謀罪の危険性を浮かび上がらせる報道を続けた)。

 一方、新聞など大手メディアをして共謀罪に関心を向かわせた最大の要因が、民主党が与党との全面対決を辞さずとハラを固めたことだったとして、では民主党にそれを決意させたのは何だっただろうか。ホリエモン・メール事件に端を発した民主党の信頼低下と代表交代などの事情があったにせよ、わたしはブロガーたちが繰り広げたネット上での〝共謀罪反対運動〟が大きく作用したのではないかと思う。そう断言するには綿密な検証が必要であり、完全には証明できないかもしれないが、少なくともその可能性は大きいと考える。
 さかのぼれば、共謀罪に対しては日弁連と市民運動がその危険性にいち早く気付いた。それらの人々の中から、ブログで危険性を訴える動きが相次いで出てきた。この1カ月余で言えば、4月の本格審議入り決定を境にして、相当なうねりがネット上でまき起こった。ブロガーからブロガーへ、強行採決の阻止を訴えるトラックバックが行き交った。わたしのこのブログにだって、初めてトラックバックをしていただいたブロガーの方が何人もいる。
 法務省もこうしたネット上の動きに敏感に反応している。4月中旬には法務省HP上に「組織的な犯罪の共謀罪」に対する御懸念について」と題する必死の説得調の釈明文がアップされ、その後も数度にわたって加筆されている。法務省としてはネット上で増殖を始めた「共謀罪反対」ないしは「共謀罪に不安」との世論を無視できなくなったし、恐ろしくも感じたことを裏付けているのではないか。民主党がハラを固めた要因の中には、こうしたネット上での世論形成を見て、自信を深めたこともあるのではないだろうか。

 ブログをめぐっては「参加型ジャーナリズム」などのキーワードで、既存メディアを凌駕する可能性について議論が続いてきた。しかし、共謀罪について言えば、ブロガーたちは決して一次情報の発信者ではなく、むしろ伝え知ったことを広めて回っただけかもしれない。より正確に表現するなら、ブロガーを担い手として、「ネット上の社会運動」が十分に成り立ち、かつ大きな成果を挙げることが可能であることが証明されたのかもしれないと考えている。

 最後に、それでも新聞など大手メディアが本腰を入れて報道を展開すれば、まだ世論は大きく動く。そのことは間違いはないと思う。だからこそ、今のうちに「落としどころ報道」を脱却しなければ、いよいよ新聞は衰退する一方だ。

*「踊る新聞屋-」さんのエントリー「エビちゃんを超えた「共謀罪」が持ったblogospherの議題設定機能」は、わたしよりも考証が綿密。
*共謀罪に関するわたしの過去のエントリーは、「平和・憲法~共謀罪」カテゴリーを参照いただきたい。
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by news-worker | 2006-06-07 20:56 | メディア  

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