イラクの自衛隊取材ルールは今も有効

 日本政府は20日、イラク・サマワに派遣している陸上自衛隊部隊の撤退を正式に決めた。主体的な判断ではなく英軍の撤退に合わせて、とか、遅きに過ぎるとか、色々と思うところはあるが、これから始まる撤退作戦をメディアが報じていく上で、気になることがある。2004年3月に、防衛庁と日本新聞協会、日本民間放送連盟(民放連)の3者が確認した現地取材のルールのことだ。その中に、どうみてもメディア側が防衛庁、自衛隊の事前検閲を容認したとしか解釈できない項目が含まれている。
 これまでは、サマワに日本の大手メディアが常駐していなかったから、この検閲規定が問題になることもなかった。しかし、自衛隊の撤退はそれ自体が大きなニュースだ。撤退中の自衛隊部隊が襲撃を受けでもすれば、国際的なトップニュースになる。当然、日本の大手メディア各社も現地取材を考えるはずだ。個々の取材場面では、検閲規定をめぐり防衛庁・自衛隊とメディア側の対立が生じるのではないか。生じなければおかしい。唯々諾々と〝大本営発表報道〟を行うつもりなら別だが。



 防衛庁と新聞協会、民放連の確認文書は防衛庁のホームページからだれでもPDFファイルでダウンロードできる。イラク関係の目次一覧からは分かりにくいのだが、文書は
イラク人道復興支援活動現地における取材に関する申し合わせ

「イラク人道復興支援活動現地における取材に関する申し合わせに」基づく阿部雅美日本新聞協会編集委員会代表幹事および小櫃真佐己日本民間放送連盟報道小委員会小委員長代行と北原巌男防衛庁長官官房長との確認事項

イラク人道復興支援活動に係る現地取材について(イラク及びクウェートに所在する自衛隊部隊に係る立入制限区域への立入取材申請書)―の3通ある。
 問題なのは③だ。宿営地など派遣部隊の管理地に立ち入って取材する場合に必要な許可証である「立入取材員証」の申請書だ。申請にあたって、あらかじめ順守すべき事項がA4判の用紙5枚にわたり列挙されている。「それらを守りますので、宿営地など自衛隊の管理区域での取材をさせてください」という形式だ。
 順守事項に「4 情報の取り扱いに関する事項」があり、その中に「下表右欄に例示する安全確保等に悪影響を与えるおそれのある情報については、防衛庁又は現地部隊による公表又は同意を得てから報道します(それまでの間は発信及び報道は行われません)」との文言がある。その後に、「下表」が続き、左欄に「報道しても支障のない情報の例」、右に「安全確保等に影響し得る情報の例」が並ぶ。この右側の項目が、メディアが「防衛庁又は現地部隊による公表又は同意を得てから報道します」と約束する検閲項目ということになる。
 では、それらは具体的にどんな項目だろうか。10項目にわたって22の情報が例示されている。例えば「部隊の勢力の減耗状況」や「部隊の人的被害の正確な数」が挙がっている。仮に自衛隊部隊が攻撃を受けた場合、同行取材していた記者が被害状況を速報しようとしても、それは、攻撃した側にどのくらいの効果があったかをただちに知らせることになるからダメ、というわけだ。
 「部隊の将来の活動の予定・計画その他の部隊に対する攻撃や活動の妨害の計画及び実施を容易にし得る情報」というのもある。つまり、いつ部隊が撤収するかなど、将来のことは何も報道できない。撤収がすべて終わるまで、報道が制限されるということだ。
 こうした検閲、報道統制にも等しい措置の大義名分は、派遣部隊と取材者自身の安全のためとされている。そのこと自体、今回の派遣が「非戦闘地域」への派遣ではなかったことを物語っているのだが、同時に、やはり純粋な軍事行動、軍事的発想は「知る権利」や「言論・表現の自由」とは相容れない、ということを強く感じる。この取り決めによって、「とにかく書くな」の無意味な報道統制だけが実績として残ることを危ぐする。
 だが、報道のフリーハンドを確保する道も実はある。立入取材証を申請しない、ないしは返上すればいい。多分、現地で自衛隊からの情報提供は一切なくなるが、自助努力で得た情報を報道するには何の制約もない。自らの判断で報道すべきことを報道すればいい。安全の確保も自らの責任になることは、もちろんだが。
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by news-worker | 2006-06-22 21:11 | メディア  

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