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「権利を手にするために~労働組合づくりの手引き」

 間もなく新聞労連委員長の任期を終える。今週、7月25-26日に開催される定期大会で退任する。2年間の任期を通じて、自分なりに力を入れて取り組んできたことの一つに、労働組合の組織の強化、拡大がある。単に組合員数を増やす、ということではない。正社員だけでなく、契約社員や派遣社員など不安定な雇用形態の人たちも含めて、「労働組合」という権利を手にできていない人たちに、この権利をどう広げていくのか、という意味での「強化」「拡大」だ。「組織」の強化、拡大は同時に「権利」の強化、拡大でもあると考えてきた。印刷別会社化など経営側の合理化政策と表裏一体の課題でもある。
 全下野新聞労組の争議のように、労働条件の切り下げを飲まされ、労働者の権利を守りきることができなかった苦い出来事もあった。わたしたちの主張が裁判所に受け入れられなかったことの背景には、わたしたち自身の「権利」への感覚のマヒがあったかもしれないと、今は考えている。どこかに「勝ち組労働者」の驕りはなかっただろうか。わたしたちが享受している「権利」を、他の人にも広め、そうすることで権利を高める運動をわたしたちは疎かにしていなかっただろうか。実際に、未組織の新聞社従業員の方から「新聞労連は勝ち組労組の集まりだと思っていました」と聞かされたこともある。
 わたし自身のそんな思い、反省も込めて、労働組合づくりのマニュアル冊子を新聞労連でつくった。タイトルは「権利を手にするために~労働組合づくりの手引き」。25日からの定期大会にあわせて、加盟の各労組に配布する。一般の方でも、興味のある方にはお譲りしたい。



 内容は、実践的なものにした。「労働組合をつくりたい」という相談があれば、この冊子を渡して勉強してもらい、準備を進めてもらう、そういう使い方ができるようにした。いまだ、労働組合ができていない新聞社の印刷別会社の従業員にも読んでもらいたい、という強い思いもある。
 巻頭言の「はじめに なぜ組織化か」はわたしが書いた。この文章はそのまま、新聞労連の来期の運動方針案にも盛り込んでいる。

なぜ組織化か
 労働組合はそれ自体、働く者の「団結する権利」です。一人ひとりは、企業や職場の中で弱い存在です。企業や雇用者の横暴に対して、何もできません。しかし、弱い一人ひとりも団結することで、企業や経営者と対等の立場に立ち、賃金その他の労働条件を自らも加わって決めることができるようになります。それが労働組合という権利です。
 しかし、社会には今、その権利を手にしていない労働者、入りたくても入れる労働組合が身近にない労働者が大勢います。また、労働組合を自分たちで作ろうとしても、その動きが経営者に知られたとたんに仕事を奪われかねない人たちも大勢います。これらの人々が労働組合という権利を手にできるようになるには、現に今、その権利を手にしているわたしたちの支援が不可欠です。権利は権利として適切に行使していかなければ、輝きを持たすことはできません。労働組合という権利を広げ拡大していくこと、そのこと自体もまた権利の行使なのです。

 新聞産業では1990年代以降、印刷部門を中心に別会社化合理化が進んでいます。これまでは、印刷部門の社員は新設された別会社に発行本社員の身分のまま出向し、賃金その他の労働条件は基本的に守られてきました。しかし、2006年4月、下野新聞では争議の末に、一切の出向を認めず転籍とし、生涯賃金のダウンの補填も行わない過酷な別会社化を会社が押し通しました。
 また同じく同年4月には、京都新聞で印刷部門のほかに広告・販売部門をも別会社とし、会社を3つに分ける合理化が実施に移されました。
 経営者にとって、別会社化合理化の直接的なメリットは人件費の削減です。給与水準は発行本社よりも低く設定されます。本社員の出向を認めても、定年退職者を別会社採用のプロパー社員で補充していくことによって、時間はかかるものの大きな人件費削減効果を挙げることができます。
 メリットはそれだけではありません。これまで、別会社化された職場にはなかなか労働組合が立ち上がりませんでした。結果的に、このことも大きなメリットを経営者にもたらすことになります。賃金その他の労働条件について、団体交渉という面倒な手続きを経ることなく、経営者が自在に設定することができるからです。仮に別会社が収益を上げたとしても、労働者に還元する必要もありません。そもそも要求がないからです。
 その状態が放置されたままだと、一体どうなるでしょうか。例えば、相対的に低賃金で働いているプロパー社員が職場の中で一定の人数に達し、発行本社の出向社員を上回るようになった場合、経営者は労働条件の均一化、つまり出向社員の労働条件の切り下げを言い出さないとも限りません。「あなたたちよりも安い給料でよく働いてくれる社員が沢山いるのに、どうして今まで通りの割高な給料を払わなければならないのか」と。
 あるいは京都新聞の例のように、味をしめて発行本社の他部門にも次々に同様の別会社化合理化提案を出してくる例が続々と出てくるかもしれません。結果的に新聞産業内で、なし崩しの職種別賃金への移行が進むことにもなりかねません。
 仮に、別会社化を阻止できないとしても、今やその次の課題も明らかになっていると言えます。別会社化されたら、そこにも労働組合という権利を実現することです。その権利を行使して、さらなる待遇と労働条件の切り下げは決して許さない、というたたかいを組むことです。肝腎なのは、今あるわたしたちの労働組合が、そのために何をするのか、どう動くのか、です。
 新しい労働組合を立ち上げるやり方もあれば、既存の労組の規約を改め、プロパー採用の社員も組合員として迎え入れるやり方もあります。新聞労連内には、毎日新聞労組や宮崎日日新聞労組のように、印刷別会社や関連会社を組織化している先例もあります。また、下野新聞の印刷別会社では、転籍を選択した全下野新聞労組の組合員5人が中心になり、全下野労組の支援のもとで会社発足から日を置かずして労働組合が立ち上がりました。京都新聞労組も、組合員資格を広げました。

 新聞産業のみならず、契約社員やパート、アルバイト、派遣社員など、正社員ではない不安定な雇用の増大は、今や「格差の拡大」のひとつとして社会問題にもなっています。これらの人たちは、専門的な職業教育を十分に受けることができるとは言いがたく、何年働いても賃金は思うように上がりません。何よりも、「契約期間満了」を理由に、いつ「雇い止め=事実上の解雇」となるかもしれず、不安定な雇用です。そして多くの場合、すぐに加入できる労働組合が身近にありません。そのために、待遇や労働条件に不満があっても「仕事がないよりはまし」として、無権利の状態を我慢して受け入れているのが実情です。
 新聞産業でも事情は同じです。近年は、人件費抑制の一環として、従来は発行本社の正社員が行っていた業務をこうした契約社員や派遣社員らが担うケースが増えています。別会社化合理化と同じく、こうした人々をそのままにしておいては、わたしたちは自身の労働条件を守りきれなくなる恐れがあります。

 「今なぜ組織化か」。それは、別会社のプロパー社員や、同じ職場にいる不安定雇用の契約社員や派遣社員、パート、アルバイトなどの人々を無権利状態のままにしておいては、やがてわたしたち自身の賃金や労働条件を守ることができなくなるからなのです。企業籍や働き方に違いはあっても、みな「新聞をつくり、社会に届ける」という同じ仕事をしている仲間です。同じ新聞産業で働く仲間です。既にあるわたしたちの労働組合が組織化に取り組まなければ、だれがそれをやれるでしょうか。情けは人のためならず、です。

by news-worker | 2006-07-23 11:00 | 労働組合  

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