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現職警官の飲酒運転をめぐる2つの処分

 飲酒運転をめぐる公務員の懲戒処分について、静岡県知事と兵庫県知事の発言を紹介した9月27日のエントリー「『免職は死刑に等しい』『直ちに免職は行き過ぎ』~2人の知事の発言」に対し、多くの方からコメントをいただいた。何人かの方とは1週間にわたって意見の交換をさせていただいた。
 わたしが2人の知事の発言に共感を覚えるのは、ものごとは「1かゼロ」か2つに割り切れるものばかりではない以上、公務員の飲酒運転の処分にも一定の幅を残しておいた方がいいのではないかと思うからだ。飲酒運転そのものは明確に悪だ。しかし「飲酒運転は一律免職」とすれば、それは他の交通違反、法令違反にまで将来的に広がって行きかねないとの危ぐを拭い去ることができない。法令に限らず、内規まで含めてあらゆるルール違反は一発で免職、という事態に道を開きかねないことを恐れる。
 そうしたわたしの意見に対し、現に公務員の飲酒運転が後を断たない中で、最初から「飲酒運転をする人間が公務員の中にもいるのは仕方がない」との前提で、「一律免職」に批判的な発言をするのは知事としておかしい、社会の空気が分かっていない、との批判的なコメントをいただいた。知事としてまず示すべきは、いかに飲酒運転を撲滅するかであり、公務員である以上「一律免職」は当然のこと、現状は民間より甘すぎる。飲酒運転が他の交通違反などと比べて、いかに重大な犯罪行為かを考えよ、ということだ。
 少し乱暴かもしれないが、この1週間の意見の交換を要約すると、そういうことだ。
 正直に言って、わたしの考えは少し揺れている。そこにもってきて、さらに考えをあらためざるを得ないのではないかと思わされる出来事が、飲酒運転取り締まりの元締めである警察をめぐって起きた。飲酒運転の現職警官に対する富山県警と警視庁の対照的な処分だ。



 富山県警のケースの概要は、地元紙北日本新聞の記事を引用する。
9日後ようやく発表 飲酒運転警官停職6カ月 2006年10月05日
 南砺署の男性巡査長(52)が飲酒運転で摘発された問題で、県警は四日、巡査長を道交法違反(酒気帯び運転、運転中の携帯電話使用)の疑いで書類送検し、停職六カ月の懲戒処分としたと発表した。県議会などから早期に公表するよう求める声が出ていたが、発表は摘発の九日後になった。県民からは「処分が軽過ぎる」などの声が上がった。巡査長は同日付で依願退職した。
 県警は巡査長が昭和六十年にも酒気帯び運転で物損事故を起こし減給の懲戒処分を受けていたことや、調べに対し「(摘発される前にも)二、三回飲酒運転した」と話していることも明らかにした。
 調べでは、巡査長は九月二十五日、砺波市内のスーパー駐車場で日本酒三合(五百四十ミリリットル)を飲み、車を運転。高岡市内でパチンコした後、酒店でさらに日本酒を買い、運転しながら一合(百八十ミリリットル)を飲み、計十四キロ走行した。午後二時四十分ごろ、砺波市太郎丸の県道で携帯電話をかけながら運転しているのを県警高速隊員に発見され、呼気一リットル中〇・二五ミリグラムのアルコール分が検出された。言動がしっかりしていたことから酒酔い運転ではないとした。

 警視庁のケースは毎日新聞記事を引用する。
<飲酒運転>警視庁が交通執行課巡査部長を懲戒免職に[ 10月06日 12時50分 ]
 警視庁は6日、千葉県警に酒気帯び運転で逮捕された同庁交通執行課の藤崎信一巡査部長(47)=千葉県東金市油井、既に釈放=を懲戒免職にした。
 藤崎元巡査部長は先月28日、千葉県大網白里町の県道で、酒を飲んで乗用車を運転したとして、道路交通法違反(酒気帯び運転)の疑いで現行犯逮捕され、翌日釈放された。東京都内で同僚7人と飲酒し、自宅近くのJR外房線大網駅から車を運転していた。
 警察庁の酒気帯び運転の懲戒指針は「停職」か「減給」だが、(1)秋の全国交通安全運動期間中だった(2)本人の業務が交通違反の取り締まり(3)内部で飲酒運転の処分を重くするとの通知を出していた――ことを踏まえ、懲戒免職とした。

 富山県警はこんな説明もしたようだ。(地元紙富山新聞の記事を引用=リンク切れ)
摘発から九日後に事実関係を公表したことについて、岸田警務部長は、追跡捜査が 必要で発生当日の発表は適切ではなかったとしたうえで、「早いか遅いかという評価はできない。一刻も早く公表したいと考え、捜査していた」と述べた。
 問題が発覚して以降、県警は「処分決定時に公表する」との姿勢を取り続けた。県警本部には四日までに、抗議や苦情の電話が約二百本、メールが約五十通あったほか、石井隆一知事は三日に安村隆司本部長を呼んで厳正な対処と速やかな発表を求めるとともに、定例記者会見で不快感を示していた。
 停職六カ月は、県警職員の物損、人身事故のない酒気帯び運転の処分では最も重いもので岸田警務部長は「酒を飲みながら運転しており、最近の飲酒運転もほのめかすなど悪質性を十分に考慮した」と述べた。

 付け加えるなら、富山県警の巡査長には退職金1800万円が支給されるという。
 わたしが解説するまでもないと思う。富山県警も警視庁も、事故を起こしていない酒気帯び運転では「免職」の明文規定は持っていなかったのは同じだ。しかし、この処分の差はどうだろう。富山のケースは「運転中の飲酒」、言ってみれば〝酒飲みながら〟運転だ。現職警官の前代未聞の不祥事と言っていい。なのに、こういう処分しか出せないのだから、最初から就業規定で「飲酒運転はいかなるケースであれ、一律免職」とするしかないという意見が極めて説得力を持ってくると思う。「一律免職」の規定はなくとも運用で厳正に臨む警視庁のケースだけだったならば、わたしも自分の考えに確信を強めることができたかもしれない。しかし、富山県警のケースを見せつけられては、率直に言って、聞く人の耳に届く言葉をもはや見出せない。
 富山県民の怒りは収まらないだろう。1999年に神奈川県警で不祥事が相次いで明らかになったとき、わたしは横浜に在勤していた。そのときのことを思い出す。県民の怒りはすさまじく、交通違反取締りの検問でも現場の警察官たちは県民ドライバーから罵倒され続けた。因果関係は県警は認めなかったが、警察官の中途退職者が増加した。警察の現場の士気が崩壊していたのだと思う。
 富山県でも同じではないか。仕事に自覚と誇りを持っている警察官ほど、今回の処分にはやるせなさを感じているのは想像に難くない。現場の士気が崩壊すれば、飲酒運転の取り締まりの実効も薄れてしまう。飲酒運転の撲滅自体が遠のく。
 前回のエントリーにいただいたコメントの中には、飲酒運転の撲滅には、一過性のものではない継続した報道が必要とのご意見もあった。富山の記者たちにがんばってほしいと思う。富山県警に対し、県民意識とのズレを追及することを含めて。わたしたちも持続する報道のためにがんばらなければならない。
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by news-worker | 2006-10-07 13:57 | 社会経済  

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