2005年 11月 18日 ( 1 )

 

続 被害者の実名、匿名

 事件事故をめぐるメディアへの警察発表の際、被害者の氏名を実名とするか匿名とするかの判断を警察に委ねるべきかどうか。わたしは「被害者の実名、匿名」のエントリーで、新聞協会が国の「犯罪被害者等に対する基本計画検討会」に慎重姿勢を求めたことに対して「その主張は正論であることは違いない。わたし自身の考え方も近い。しかし、一般の市民からは支持を受けないだろうな、と思う。これまで、新聞やテレビの事件事故報道は『被害者不在』をずっと続けてきたからだ」と書いた。その後、このエントリーに批判的なTB、コメントもいただいたので、少しわたしの考えを補足して書いておきたい。
 被害者の氏名の扱いを警察の裁量に委ねるのを是とする主張の最大の理由は「メディアの被害者に対する配慮の無さ」だろう。そのことはわたしも否定しない。被害者側が警察に匿名発表を求めることも理解できる。しかし、今の警察は決して国民を守る存在ではない。確かに、そういう責任と期待を負っている公権力だが、最近の警察には恣意的に強制捜査権を行使する例が目立つ。それは、今のメディアが「国民の知る権利を代行する」責任を果たしていないのと似た関係にあるといってもいいと思う。
 今の警察は、例えば政治的主張の表現活動として容認されるべき「ビラまき」行為に対しても、住居侵入などの容疑で逮捕している。ビラの内容は「イラクへの自衛隊派遣反対」であったり、配布しているのが共産党員だったり、恣意性は明らかだ。今の共産党員が、明日は民主党員がターゲットにならない保障はない。これに共謀罪でも新設されたら一体、どうなるのか(メディアも追及が甘い)。
 また、北海道警など捜査費の不正流用を自ら認めた例でも、裏金づくりの過程で警察組織内で行われていたはずの数々の違法行為は捜査すらしていない(メディアも追及が甘い)。いわゆる埼玉県桶川市の女子大生殺人事件でも、被害者が生前、ストーカー行為の被害を訴えていたのに放置し、事件後、そのことが発覚するといったんは謝罪しながら、遺族が起こした損害賠償請求訴訟では一転して責任回避の姿勢を見せた。何があっても守る対象は「国民」ではなく「警察組織」だ。
 そこまで日本中の警察官すべてが悪質ではないとしても、警察は事件事故の当事者がメディアと接触するのを極度にいやがる。「捜査妨害」との理由だ。自由裁量を彼らが手にしたとき、恐らく、匿名発表の乱発が始まる。被害者情報をメディアから遮断することを社会が是とすることは、メディアが警察発表だけで記事を書くことを社会が是認することを意味する。しかし「警察発表の垂れ流し」は、まさに今のメディアの体質的な問題点だ。これは大きな矛盾だ。
 今のメディアの報道姿勢に問題が大ありなのは間違いない。しかし、だからといって被害者保護の名目で、被害者情報の扱いを今の警察に委ねることに、わたしは同意できない。
 ここまで書いてきて思うのだが、カギになる用語は「今のメディア」と「今の警察」かもしれない。メディアの内部に身を置くわたしとしては、メディアが変わるしかない、変えるしかないと考えている。しかし、現実の問題としてメディアはちっとも変わらないし、それでは何ら現実的な問題の解決にもならないということも理解できる。二者択一の問題ではないのかもしれない。
 被疑者のための「当番弁護士制度」というものがある。弁護士会が当番制で弁護士を待機させておき、逮捕直後でも被疑者の要請があれば接見に赴く、という制度だ。これにならうなら、被害者がメディアでもなく警察でもなく、第三者に様々な相談をできる制度、機関の実現を目指すことが必要かもしれない。警察が、メディアへの発表が必要と判断した場合は、被害者側にそういった制度、機関があることを通知することを義務づける。被害者の依頼を受け警察、メディアの間に入って、被害者の諸権利を守る制度、機関だ。これは思いつきと言えば思いつきだし、本来はメディア自身がそうした信頼を得なければならない、ということが大前提だが。

追記(11月19日午前0時45分)
 日中はバタバタしていて、夕刊にろくに目を通していなかったのだが、こんな記事が出ていた。 
「被害者は実名発表を」 殺人事件被害者の父が請願書(朝日新聞)
 「犯罪被害者実名で」遺族が首相あてに請願書(読売新聞)

(以下、読売記事の引用)
 東京のJR池袋駅ホームで1996年、男に暴行を受けて死亡した埼玉県春日部市の立教大4年小林悟さん(当時21歳)の父・邦三郎さん(60)が18日、「警察は犯罪被害者をできるだけ実名発表し、報道機関の自主判断に委ねることを望む」と訴える小泉首相あての請願書を内閣府に出した。

 政府の犯罪被害者基本計画案作りでは、被害者名を実名・匿名のどちらで発表するかの判断を警察に委ねる方向で議論が進んでいるだけに、被害者遺族が実名発表を求める動きは、議論に一石を投じそうだ。

 日本民間放送連盟も同日、実名原則への修正を求め、再度申し入れた。

 請願書では、「被害者の実名・匿名発表と報道被害は、論じる基本が異なる」とした上で、「匿名は人間としての存在を否定する行為で、亡き者が一番悔しい思いをしており、実名報道が原則」と強調。

 「マスコミが被害者の了解を得てから取材するのは当然」としつつ、「加害者の話だけで事実と違うことを公表され、被害者が社会から批判され、誤報で傷付くのが報道被害。警察の確認が不十分のまま報道されているのが現状で、これらを調査し、正してくれるのもマスコミだ」としている。
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by news-worker | 2005-11-18 20:24 | メディア