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衆院選

 8月は韓国、シカゴ行きを含めて出張が6回で計20日と慌しく過ぎ去った。9月に入って、溜まっていたデスクワークの処理に追われている。労働組合の新年度は9月からが本番。中旬には会社側の印刷部門の切り捨て提案とたたかう全下野新聞労組の支援も兼ね、拡大全国合理化対策部長会議を宇都宮で開催する。第一回の中央執行委員会も招集している。加盟各単組も夏に定期大会を開き、執行部が交代したところが多い。労連中執委も例年、ガラリと顔ぶれが変わる。

 そうした諸日程に備えて資料や書類づくりに追われている中で、気になるのは衆院選。先日、日本マスコミ文化情報会議(MIC)の事務局会議で、週明けにもMICとしての意思表示を、という話になり、議長(わたしです)声明の草稿を書き始めたところだ。
 小泉首相は「郵政民営化の是非を国民の皆さんに問う」と言っている。民主党の岡田党首は「争点は郵政民営化だけではない」と反論する。他党の主張はよく聞こえない(見えない)。現場を離れた身で、報道を通じて今回の選挙を見ているとそんな印象だ。
 最大の争点が郵政民営化であるのは間違いがない。同時に、郵政民営化に取り組む小泉政治の手法そのものもまた争点ではないのか。そんな気がしてならない。驚いたのは衆院解散後の各紙世論調査で、内閣支持率がアップしたことだ。小泉流の手法が「強い決意で改革を断行しようとしている」と好意的に受け止められたということだろう。法案に反対した候補者は公認せず、次々と「刺客」を擁立したこともその「決意」の表れということになる。
 しかし、そうした手法に「ちょっと待て」と言いたくなる。要するに、総理総裁たる自分の方針に従わない者は切り捨てるという手法にほかならない。郵政民営化に賛成ならば「善」、反対するものは「悪」という単純な図式化だ。独裁的な党内運営と言っていい。そもそも、衆院は法案を可決させたのに、参院で否決されたからといって解散する手法に問題はないのか。これはもうファシズムへの道とすら言えるのではないか。ナチスは合法的に政権を取った。ヒトラーも「改革」を叫んだ。共産党をはじめ他勢力を徹底的に弾圧したけれども、ドイツ国民はヒトラーを支持し続けた。そんな歴史の教訓が頭に浮かぶ。

 郵政民営化にも疑問がある。本当に「改革」だろうか。郵政だけを見ていれば、民営化でもいいのではないか、と考える人が多いのも分からないではない。小泉首相は郵政だけしか口にしないから、そういう風に考えてしまう。しかし、かつての国鉄改革、分割民営化が結局何をもたらしたか、その答えをわたしたちは4月に尼崎の脱線転覆事故で見せつけられたはずだ。
 もっと分かりやすく話をしよう。かつて航空業界はがちがちに規制をかけられていた。国際線は日本航空、国内線基幹路線は全日空、ローカル線は東亜国内航空(その後日本エアシステム→日本航空と経営統合)と棲み分けが定められていた。その後、規制緩和で自由競争になり、スカイマークなど新規参入も実現した。割引運賃も多数登場し、空の足は身近になった。しかし、規制緩和の本質は、永遠に競争が続くことだ。足を止めたとたんに競争に敗れ、退場しなければならない。必然的に経費削減、中でも人件費の抑制に拍車がかかる。安くていつでもクビを切れる雇用形態が増える。労働組合は経営翼賛、そうでないと弾圧される。安全運航の要の整備部門にも合理化がおよぶ。現に整備部門の別会社化、外注化が進んでいる。それと最近のトラブル多発は無関係だろうか。運賃にしても、東京-大阪などのドル箱路線では、新幹線との競合もあって安くなった。しかし、離島路線には割引がない。利用客が「勝ち組」と「負け組」に分けられている。

 今は「勝ち組」「負け組」が流行語になるご時勢。言ってみれば、社会のあらゆる営みをこの2つのどちらかにふるい分けていく、その象徴が郵政民営化ではないのか。恐らく、自分を「勝ち組」と考えている人は、間違いなく「郵政は民営化でいい」と考えているはずだ。
 ホリエモンが出馬したことが、もしかしたら今回の選挙の本質をいちばん象徴する出来事かもしれない。彼は小泉流の改革の本質を知り抜いている。その本質とは、ルール無用が許されるということ。もう少し丁寧に言えば、これまでの社会の規範、経済行為の倫理上の規範がこの10年余で次々に崩れ、「強者はより強く、弱者はより弱く」の流れはもはや後戻りができない。小泉政治はその流れをさらに加速させようとしている。「何でもあり」のホリエモンにとっては、まさに「止めてはいけない改革」だ。

 しかし、今日は「勝ち組」でも、いつ「負け組」に転じるか分からない。そのときに、もはやわたしたちの社会にセーフティネットはない。それが小泉流の「改革」の本質であり、新自由主義の本質でもある。今、労働組合運動に身を置いてのわたしの実感だ。今回の選挙で問われるべきは、わたしたちの社会がそうした方向へさらに突き進んでいこうとするのを是とするのか、非とするのかだ。郵政民営化が最大の争点と言っても、実はその象徴でしかないのであって、争点が郵政民営化それ自体にとどまってしまうなら不幸なことだ。

by news-worker | 2005-09-03 11:29 | 社会経済  

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